Last Updated on 2024-10-04
2015年の北陸新幹線金沢駅開業から9年を経て、今年3月、福井県敦賀まで延伸開通しました。
福井県は国内最大市場とダイレクトにつながることで今後、観光による経済拡大が大いに期待されます。また、インバウンド市場においても定番化した金沢からの流入が検討できるでしょう。
しかし、幹線インフラの開業にはその反動も必ず生じます。鉄道の場合は並行在来線の廃止です。今回の敦賀延伸により関西圏を結ぶ特急「サンダーバード」と中京圏を結ぶ「しらさぎ」が敦賀まで廃止となり敦賀駅での新幹線との乗りかえの不便さが加わりました。関西、中部からの旅客にとっては乗り換えの手間が増えるためそのテコ入れも必要とです。北陸はこれら3つの巨大市場からの誘致をバランス良く行っていかねばなりません。
一つ言えるのは乗り換えの不便さばかりが報道される敦賀駅ですが、そもそも乗り換えではなく下車していただくまちにしなければならないわけです。観光地としての敦賀の魅力づくりはまだまだこれからコンテンツ開発など出来ることが多いのではないでしょうか。
(但し、東京から敦賀はやはり東海道新幹線で米原経由の方が速く料金も安いようです)
北陸新幹線を軸とした福井県の旅客誘致においてどのような観点やアイデアがあるのか?今回、Web上に見える範囲で私なりに感じることをあげてみました。
地方への観光誘致を考えた時、最も近くの成熟した観光地からの誘客を最初に考えるでしょう。あまり知られていない我が町にいきなり旅客が押し寄せることはありませんし、先ずは近隣の主要観光地からのサイドトリップから可能性を求め、近い将来、旅客の主目的地にすることが目標です。
話しは逸れますが、よく行政事業で「宿泊してもらってこそ」のような宿泊してもらわないと価値がないように言われる事業も見受けますが、いきなり宿泊地としてのブランディングやコンテンツづくりが1年や2年で可能だろうか?と感じます。先ずはサイドトリップで「口コミ、評判」を獲得することがセオリーであり現実ではないでしょうか。それこそSNSで爆発的なインバウンドのブームを呼び込むなどは先に長続きしないもの。観光地づくりはコンテンツの成熟度やまちのホスピタリティの向上と一朝一夕では難しいものです。
また、近隣都市に足を向ける旅客のニーズや嗜好、属性データは大変貴重です。その地域に何を求めていくのか?北海道と沖縄、京都では求めるものが違うでしょう。北陸であれば、その歴史や文化、海鮮、グルメ、海、温泉、芸術、買い物・・・明らかな傾向があれば、そこに訴求を寄せていくことも必要です。
また、旅客の形態(個人やグループ)や、旅行社、OTAなどの申込み元、自家用車、鉄道などの交通手段に、旅行
計画で参考にした情報媒体など、もしこれらの傾向がわかれば観光商品づくりや販路がかなり見えますから効率
的です。予測データやターゲットとしてもこうしたことを先ず考えるべきですが、そこを抜きにしてモノコトづく
りにのみ熱心なことが非常に多いです。
近隣の観光最大都市と共に注目を集め実績が出ればライバルへ昇進!ライバル意識を持って観光施策に工夫や磨きをかけていくのもよし、互いに周遊エリアとしてシナジー効果を発揮していくのもよし、こうして地方の集客が生まれ観光圏としての観光経済が拡大していくものでしょう。名ばかりの「広域連携」もいただけませんが、縦割りのままがもっといけないことでしょう。
さて、福井県の今後の観光施策を考える場合、近隣の最大観光都市はもちろん「金沢」です。金沢の観光データはWeb上にも様々にありますが、基本となる金沢市の観光調査統計を見てみることにしましょう。
金沢の観光市場の現状として参考になるのが、金沢市観光政策課から発表されている「観光調査統計」です。
アフターコロナの現在、マーケティングにおいて参考できる2019年データを見てみましょう。
「金沢市観光調査結果報告書(観光政策課)平成31年(2019年)
各都市の観光調査統計の全てを見たわけではないですが、金沢市の調査は観光庁の消費動向調査のように様々な観点でアンケートを実施されており、定点の観測地の入場データが書かれている程度のところに比べ、大変に参考になるものです。
とは言え、このような観光統計においてはいくら詳しいとはいえ一定のサンプル数と期間。あまりその数字に強く固執せずあくまでも参考程度として傾向を捉える気持ちで見ることが重要です。(と言っても金沢のデータは充実したものです)
先ず、時間との距離感だけ整理しておきましょう。
<東京から直通で来る場合>
| 東京 ⇒ 金沢 | 2時間34分 |
| 東京 ⇒ 福井 | 2時間51分 |
| 東京 ⇒ 敦賀 | 3時間 8分 |
| 東京 ⇒ 芦原温泉 | 最速2時間51分(2本)その他3時間24分 |
<金沢から移動する場合>
| 金沢 ⇒ 福井 | 24分 |
| 金沢 ⇒ 芦原温泉 | 27分 |
| 金沢 ⇒ 敦賀 | 41分 |
北陸新幹線延伸により首都圏の旅客にとって福井は現実的な旅先になったでしょう。もちろん、首都圏からのインバウンド市場に対しても個人手配客のみならずBtoBの旅行社による旅程の組み込みも十分検討できるでしょう。
首都圏の人がはじめて福井に行く場合、恐らく最初に調べるのはおよその所要時間でしょう。そこで何となく受け取るイメージが大切だと思います。その「感覚の物差し」は経験値が高い金沢との対比になるのではないでしょうか。
金沢と組み合わせたい人は当たり前ですが金沢からの時間が最初の決め手。金沢の経験もない北陸初心者の方は経験の可能性が高いであろう「京都=2時間10分」との対比になるかもしれません。
福井県のどこに行く?となればやはり「温泉」は滞在地として想像しやすいものでしょう。「芦原温泉」は1日2本だけですが2時間51分であれば金沢と大差なく、直行の目的地としての可能性があるのかもしれません。
芦原温泉が首都圏旅客のニーズを満たす温泉地として高評価レビューを獲得できればロケーション的に正に新しいチャンスが生まれたのだと思います。活況であれば直行列車の本数も増えて欲しいものです。また、福井に視線が行く今「金沢から27分」という訴求をWebサイトなどで高めていくことも有効でしょう。
(地域名などで検索するバイネーム検索では、観光協会と温泉共同組合のサイトが上位にあります)
2019年の観光調査統計から私なりに参考になると思う点をピックアップしてみました。福井のみならず隣接する富山、滋賀や岐阜の北部にも関連するかもしれません。観光マーケティングとは自由に考えを巡らしアイデアを出し合うことが大切でしょう。レジャーのことは若い年代の人、特に女性の発想は大いに参考にすべきだと私自身は思います。
➀訪問客は「関東圏=4割」 「中部+関西=4割」 (関東43.2% 中部23.4% 関西19.9%)
⇒陸上交通で3大市場からアクセスできる北陸はとても恵まれていると言えるでしょう。特に福井は芦原温泉も「関西の奥座敷」とも言われ関西とのつながりが古いです。
特急乗り換えの手間もダイヤ改正もあるかもしれず、知らぬ間に「当たり前」になるでしょう。関西+中部の市場を維持、増加させると共に、首都圏、長野の新規市場の開拓をプラスさせることで観光客増は大いに期待できると思います。
先述した通り敦賀のコンテンツ開発は絶好の好機でしょう。市内には手頃なホテルもいくつもあります。
➁リピーターは半数を超える51.3%
⇒金沢ファンが多いことが解ります。小京都と呼ばれることから京都へのリピーターが多いことのように単純に考えがちですが、金沢は京都とは違った魅力が旅客を惹きつけるのだと思います。
それが武家文化と公家文化の違いなのでしょうか。(インバウンド的には関心はSHOGUNやSAMURAI、つまり武家文化でしょう)また、内陸地と海辺との違いでもあるでしょう。その金沢が旅客を惹きつける魅力は福井にも共通してあるのだと思います。
➂交通機関は新幹線41.6%、鉄道19.8、自家用車19.2%、航空9.4%
⇒金沢における新幹線利用とはつまり富山、長野県含めた首都圏方面で4割を占めます。鉄道と自家用車は関西、中部と考えられるでしょう。つまり全体の訪問客割合の首都圏4割、中部+関西4割に合致します。鉄道客については➀で書いた通りです。
自家用車組は北陸寄りの京都や滋賀県、名古屋や岐阜などが多いのでしょう。これらの旅客はこれまで観光先としてあまり意識していなかった福井が新幹線開業によって露出が増えると共に着目度が増すでしょうから、更に自家用車利用の市場を伸ばす機会だと思います。
ドライブ周遊のモデルコースや各観光施設やスポットの駐車場情報の整備(これが協会サイトなどでは不足していることが多い)アクセスページの経路の図解など、現場の情報掲示やWebでの訴求において出来ることが様々にあるでしょう。
航空が9%あります。小松空港は羽田、札幌、福岡、那覇に就航しています。特に東京羽田からは1時間と大変便利である上、午前中に到着するダイヤが組まれています。新幹線延伸ということで新幹線ばかりに目がいきがちですが、延伸開業によって「福井」という文字がWeb上などでも露出が増えるタイミングで羽田経由の首都圏市場のテコ入れは多いにチャンスがあるのではないでしょうか。
国際路線はどうでしょうか。小松空港はソウル、上海、台北という日本のインバウンドにおいても最大市場の主要都市と結ばれています。訪日客はこれまでは空港到着後に金沢に向かうことが多かった思いますが、FITであっても空港から10分少々で小松駅、そこから新幹線で24分で福井駅と何の問題もない距離です。新たなデスティネーションとして提案ができるでしょう。
東アジアにおいては旅行会社が扱う団体は減っているものの欧米豪に比べてまだまだ存在します。小松空港から福井市までは車で約50分。芦原温泉ならわずか30分程度です。
こうしたインバウンド市場において福井に向かうメリットは同時に京都に向かうということでしょう。関空OUTの周遊ツアーであれば個人客も団体も多くは京都を外さないと思います。
敦賀で滞在すれば個人客は特急サンダーバードで京都や大阪へ、バスであっても京都まで2時間足らず、道中に滋賀の観光を組めば何の問題もありません。台湾、香港、中国、更に東南アジア系の旅行会社やランドオペレーターにも良い行程です。(オンザウエイの滋賀の魅力を引き出すのも福井の営業になるわけです)
➃金沢での宿泊日数は、1泊62.4%を占める
⇒やはり1泊が6割以上を占めています。この統計では2019年の年間宿泊数は約343万人あまり。約214万人は1泊2日で旅行を終えて東京などへ帰っているか周遊をしています。
残りの約128万人は金沢に2連泊以上をしているわけですから、先ずはこの128万人が周遊誘致の北陸既存のターゲットであり福井にとってそのままターゲットとなります。決して少なくない数字でしょう。
⑤金沢以外での宿泊地は、能登32.7% 加賀32.7% 富山県内19.6% 福井県内11.7%
⇒これはストレートに福井の既存需要の数字です。やはり能登、加賀、富山で9割近くを占めます。福井はこの既存の周遊市場と新規開拓市場で11%の上積みをしていき、いずれ同率程度になることが目標でしょうか。
また、福井の11.7%はどこへ行っているのでしょうか?比較的金沢に近い温泉地、加賀の隣の芦原温泉かもしれません。新幹線で移動がしやすくなった今、福井や敦賀など他地域の強いコンテンツを磨き、コトづくりをしていくことで福井県内の観光経済を拡大することを視野に入れることができるでしょう。
今回の能登における地震の復旧の遅れも伝えられていますが、1日も早く復旧がなされ、北陸地方全体の魅力に富んだ観光地づくりのため石川と福井の各地がシナジー効果を生んで欲しいものです。
⑥金沢へのリピート意欲 1年位内~いつか訪れたいが95.9%
⇒先述した通りリピーターは5割以上。大半の旅客が「またいつか行きたい」という希望を持っているのが金沢です。これは金沢1地域ではなく周辺の地域も含めた北陸としての魅力を感じている人も多いと思います。
そこには、北陸福井への訪問を促すヒントが必ずあるのでしょう。その昔「神戸」「大阪」「京都」の三都物語というJR西日本の旅行商品が人気でしたが正に北陸三都にはそれぞれの魅力があると思います。
⑦金沢に期待していることは「食べること」88.8%。次いで、史跡・名所名所観光 歴史風情のある街歩き 美術館・博物館の見学。
⇒どこに行くにも食べることは大きな楽しみですが、やはり北陸というのは首都圏や大阪の顧客にとって日本海というイメージはやはり太平洋にはない魅力を感じます。
特に氷見など日本海の魚は「美味しい魚」の印象は強く、新鮮さに惹かれます。福井県にとっても、旅客のベースにある「北陸の食へのイメージ、ニーズ」は、媒体の構成や企画などで十分に生かすことができます。首都圏や関西圏の琴線とも考えればいいのではないでしょうか。
また、名物ソースカツ丼やラーメン、蕎麦など庶民フードも旅の動機をあげてくれるものです。
(良いサイトなので商工会議所さんは是非セキュリティをかけて欲しい!)
⑧毛色が違う行程づくりで動機をあげることが大切
さて、近隣の最大都市金沢について統計数字上では顧客の姿が見えてきました。それらは顧客嗜好や傾向として参考にすべきですが真似をするというわけではありません。むしろその都市にないものこそ周遊や立ち寄り観光で福井を訪問する「理由」となるでしょう。
そういう意味では「似た雰囲気」では周遊する理由も生まれにくく、逆にメリハリがある訴求点を探していくことも大切でしょう。
例えば、歴史文化の連続となる「京都と奈良」はテイストが似ていて2日続けて行程が組みにくいとランドオペレーターの人にも聞くことがあります。そういう意味では歴史文化の京都と滋賀の自然なども組みやすいですが、奈良であっても大仏や街中にいる鹿や歴史と言っても古代の遺跡、日本の原風景としての明日香村など訴求できることもさまざまにあるでしょう。
金沢では文化体験や料理、兼六園などの庭園などを楽しむことが多いとなれば、福井では恐竜博物館や東尋坊、温泉、金沢にはない規模の寺社として永平寺などいろいろありそうです(私は近代にできた越前大仏等もある意味ユニークで見応えあるものでした)
何かを追求するテーマ旅では無い限り、やはり「毛色が違うことを楽しむ行程」は動機が高めやすいものです。
以上、金沢市の観光調査のほんの一部で福井の観光客誘致について考えてみました。ゴールデンウィークは開業効果もあってか多くの旅客が訪れたと報道されました。幹線の開通による新たな旅行先は少なからずともアーリーアダプターの存在もあるでしょう。それらが一段落した後が勝負。本当の誘致施策はそこからでしょう。
今回、行政の調査データを参考にしましたが、Web上には更に、多くの民間の情報があります。特に「口コミサイト」では旅客の生の声を聞くことができそれらは多いに参考になります。もはやWeb上だけでも様々なマーケティングの基となるデータを得ることができる時代です。
まだまだ観光客は少ないという日本の各地方においても様々な角度で検索してみましょう。きっと思わぬヒントが見つかることがあると思います。

