Last Updated on 2024-12-28
車や電車もない昔に街道の旅の拠点となった宿場町。当時の光景を想像させる街並みが残る宿場町は、今も観光スポットとして日本人のみならず訪日客にも人気です。
先日、日本海に面した福井県小浜と京都を結ぶ「若狭街道」の宿場町「熊川宿」を訪ねてみました。
若狭街道は福井県の若狭湾で水揚げされた海産物を京の都に運んだ道。そこで多く運ばれたのが鯖。「京の祭りの日は鯖寿司」と言われるほど珍重された鯖を運んだ道は「鯖街道」と呼ばれ、今でも関西人に馴染みがある道です。

図のように鯖街道はいくつかルートがあり、熊川宿は山間を縫って京都につながる若狭街道と滋賀県今津(高島市)に抜ける2つのルートの分岐点です。琵琶湖に運ばれた海産物は今津港(現在の高島市今津町)から舟で大津(滋賀県大津市)に運ばれ、その後牛車に乗せられ陸路で京の都に向かったそうです。(現在の京阪電車京津(けいしん)線)
京の都で鯖寿司を味わえたのも、この鯖街道があってのことだったわけです。
滋賀県の琵琶湖沿い、高島市方面から国道303号で福井県に向かい約20分、「道の駅若狭熊川宿」が現れてきます。その奥にある若狭牛と鰻で有名なレストラン「伍助」さんの隣に「熊川宿」の駐車場の案内板が見えて来ます。
そこそこ台数を駐車することができ、この日は日曜日の午後でしたがスムーズに駐車ができました。
宿場町の通りの長さは思ったよりも長く驚きます。何よりも大きな古民家が整然と並び、遠い昔にタイムスリップしたような風景は正に非日常です。並ぶ建物の屋根の向こうには迫力ある山の緑が間近に迫り「あー、峠に来たのだなあ」と、ちょっとした旅心を感じさせてくれます。
こうした歴史が残るまちなみであっても、どうしても現代的な家屋もまじっていたりするものですがここは見事に統一されています。まるで映画のセットの中を歩いているような気分に浸れるとても貴重な場所だと感じます。
(道路をCGで砂利道に変えればそのまま時代劇の撮影ができそうです!)
この景観が素晴らしい宿場町は「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されていて「御食国若狭と鯖街道」として日本遺産にも認定されているそうです。通りの道幅はとても広く「当時は多くの人たちが鯖をかついでこの道を旅したのだなあ」と想像してみるのも楽しいものです。
この日は春の晴れた日曜日。時間も午後だったのか訪問客もそれほど多くはなく、通りのお店もいろいろあるのですが閉められたお店もありました。もう少しだけコンスタントに旅行・レジャー客の来訪があれば通りも活気付き、来訪客も食事や買い物を楽しめるだろうなと感じました。
何よりも、隣には道の駅もあるので相互の人流ができそうです。それぞれの場所を目的にやってきても、双方が隣接する付加価値として存在することができ、来訪者は2倍楽しめるでしょう。こんな素敵な宿場町はもっと多くの人に知ってもらい足を運んで欲しいなと感じたわけです。
「熊川宿」(公式Webサイト)
「道の駅若狭熊川宿」(公式Webサイト)


➀どこから旅行・レジャー客が来訪するのか?
山間地であり車やオートバイでのドライブ客が主体。関西の旅行・レジャー客の最大市場である大阪を中心とした京阪神市場からは名神高速や湖西道路を経由して1時間~2時間半程度。十分な日帰りドライブ圏と言えるでしょう。
ポイントは、日帰りでも往復でそれなりの時間をかけるなら、この宿場町と道の駅に加えて近隣の観光スポットとの「周遊」が訪問の動機を上げるであろうこと。その「立ち寄りスポットの候補」に入れてもらうことが、このエリアのマーケティングを行う上での第一目標なのだと思います。
自治体や民間事業者は、我が町や自社のことだけを一生懸命にプロモーションすることを考えることが多いですが、旅行・レジャー客の立場に立つと、限られた時間で出来るだけ多彩に、広く、価値高く1日を楽しみたいという気持ちに寄り添うことが最も大切でしょう。
隣接都市の「小浜市」と「高島市」からはいずれも車で約20分と運転を気負うこともないほどよい距離。両市を訪問する旅行・レジャー客の周遊先として提案するには最適な距離感だと感じます。(片道40分とかだと、往復の移動で1時間以上かあ・・・と思案してしまいます)
両市の令和4年の観光入込数の統計では「小浜市」が約1万5000人(令和4年)高島市が約18万9,000人(令和3年)と滋賀県高島市の観光市場が大きいことが確認できます。熊川宿は福井県にありますが高島市の観光周遊のアイデアの一つとしてターゲティングするのが最優先となるのでしょう。旅行・レジャー客にとっては琵琶湖の周遊観光の一ヶ所として訪問するかたちです。
➁組み合わせる高島市の観光コンテンツは?
コロナ以降、都市部を避け、近隣エリアの自然散策が増加。琵琶湖と周囲の山を見ながらに幹線道路で周遊できる滋賀県は交通網も良い手軽なマイクロツーリズム先として京阪神や岐阜、名古屋方面のナンバーを付けた自家用車が目立つようになりました。
滋賀県の観光エリアは京都に隣接する大津市や近江八幡~彦根~長浜と琵琶湖の東岸が多くなりますが、湖西の高島市では2つの観光スポットが注目を浴びました。
延々2㎞にわたり大木が並ぶ「メタセコイア並木」と琵琶湖の水中に鳥居がありSNSでも話題となった「白鬚神社」です。これらは、幾度となくTVの情報番組やWebメディアで取り上げられ多くの京阪神客がドライブで訪れています。
また、今津港からは船で渡ることができる「竹生島」は昔から有名で、島にある宝厳寺は西国第三十番礼所として訪問する人も大勢います。竹生島巡りはやや時間を要すものの2~3時間程度の滞在ですから熊川宿は十分に周遊候補と言えるでしょう。(竹生島の中にある宝厳寺は位置的には琵琶湖の対岸の長浜市となります)
その他、高島市には冬のスキー(箱館山やマキノ高原など、大津からの道中のびわ湖バレイなど)での冬期も京阪神から多くの来訪があります。また琵琶湖を周回するサイクリング客もあります。しかし、これらの市場はスキーやサイクリングが主目的であり周辺エリアの周遊計画はほとんどないでしょう。(宿泊する場合は、スキー客は翌日の日程として十分検討はできます)
➂日帰りではない宿泊する観光客は?
滋賀県は各所でホテルや旅館が点在し琵琶湖を周遊する旅行者の拠点になっています。人気のバス旅行も新幹線と組み合わせて首都圏や中部、北陸などから京都駅や米原駅を経由して宿泊周遊する商品もあります。
個人のドライブ客もバスツアーも宿泊となれば琵琶湖を周回することができ、琵琶湖沿いでは大津市中心、近江八幡、彦根長浜とともに、注目される人気スポットがある高島市も立ち寄り先として今後も企画提案が増やせるでしょう。
高島市の宿泊施設は教育旅行などでも使われる高原や琵琶湖畔の民泊の他、昨今、数が増えたグランピングや琵琶湖畔のリゾートホテルもあります。
もちろん、この熊川宿自体にも古民家を改装するなどの宿泊施設がいくつかあり、是非こちらに泊まって欲しいものです。(宿場町ですから!)とは言え、先ずは日帰り客などで安定的な観光交流の流れが出来れば、自然に口コミも増え、人が人を呼び、この地に宿泊したいという訪問客の増加に繋がると思います。
まずは、京阪神や岐阜、名古屋など都市部からの立ち寄り観光で賑わいを今より創出したいですね。
➃インバウンドは無縁なのか?
日本らしさを強く感じさせる宿場町は今やインバウンドにとって強いコンテンツです。整然と美しく古民家が並ぶ熊川宿は、周辺の豊かな自然とマッチしてインバウンド客も大きな魅力を感じるでしょう。
統計上、訪日客の9割が「地方」に関心があり、日本に期待するものは買い物などもありますが、「自然や景観」として、その土地での「日本食」(和食だけではなく日本人が食べる食事)には大きな関心を持っていることがわかっています。
山間の宿場町は「そこに泊まりたい」と訪日客こそ日本人よりも需要がありそうな環境と設えと言えるでしょう。宿場町内の宿泊施設のターゲットはむしろインバウンドが主たるターゲットになるかもしれません。
また、欧米豪、アジア共の両方に訴求できるところがこうした宿場町など古い日本を感じさせる場所の特徴でもあります。(現代的なコンテンツは、欧米豪、アジアと関心が分かれるものもあり、その場合は難しさもあります)
地方、郊外エリアがインバウンド市場をターゲットにする場合、2次交通が課題となることが少なくありません。しかし、その場所の環境や体験できることに高い魅力、強い関心さえあれば最寄り駅からの公共バスがあれば彼らは問題なくやってきます。
そのバスが1時間1本であっても、むしろ、その「秘境さ」も魅力の一つとなるわけです。(秘境ツーリズムというのはますます増えるでしょう)熊川宿までは琵琶湖の湖西線JR今津駅、福井のJR上中駅からバスが出ているようです。
また、特に欧米豪客ではハイエンド旅客も多くタクシー利用は日本人の感覚よりも長距離でも多用します。例えば、バスが出ているJR近江今津駅からタクシー料金を検索すると7,200円と出ました(ナビタイム)これは目的意識を持った訪日客にとって何ら問題がない料金の範囲でしょう。
また、インバウンドそのものの訪問が少ないと思いますが、福井県側の上中駅から調べてみると何と1,750円と出ます。これは誰もが利用できる金額ですし日本人でも駅からタクシーで行ける範囲です。(駅にタクシーが常駐しているかどうかは調べていません)もちろん、訪日客のレンタカー利用も今後は増えるでしょう。
更に、インバウンド市場においては京都と北陸をバスで往来するグループがあります。東アジアはもちろんのこと、昨今では欧米豪のレジャーグループも京都から名神高速道路や湖西道路経由で北陸(金沢)に抜けるケースがあります。
湖西道路はツアーバスであれば高速代金も不要であり旅行会社にも好まれ有利でしょう。
(もちろん湖西道路は国道であり高速道路ではないため、時間に制約がなければですが)
これらのツアーバスの立ち寄り提案として必要なのは「食事」か「体験」のどちらかでしょう。単なる休憩では設定は難しいと思います。食事や体験の内容が魅力的であれば、採用される可能性は十分にあると言えます。
こうしたBtoB市場(旅行会社が流通させる市場)で安定的な受入れができればツアー商品として「シリーズ化」する可能性も十分あり、地域の安定した交流人口づくりの基盤となります。
こうした市場の交渉先は海外のように思っておられる地域も多く(インバウンドのことは何もかも海外と思っている地域や人は本当に多いです)億劫になっておられますが、最初は国内のランドオペレーターにオファーするのも一つの手段です。商品の適正や流通の仕組みなど多くのことをセールスをしながら学ぶこともできるでしょう。
もちろん、それら食事や体験の造成や手順づくりなどプロダクトづくりを十分に企画検討して行い受入れを整えることが大切です。(ここの研究と努力が成功の鍵)
★総合的に
ここまで書いたこと以外にも様々に検討できる集客要素がありそうですが、大きな流れとしてやはり既に市場が形成されている地域(今回のケースは滋賀県方面)とのマッチングが最大のポイントになると私は思いました。
また、個人の自家用車でのドライブ市場が最大市場となれば、ズバリそのマッチングポイントは「Web」ということになります。この観光業のWebマーケティングは広義では自社サイトばかりではなく外部サイト対策もとても大切です。
琵琶湖の湖西をある程度訪問先に決めた旅行・レジャー客は1日の行程や訪問先をどのようにWeb検索をするのか? その検索結果はどのようなものか? そこに情報があるのか? そこをよく見てみることが旅客との接点づくりの最大ヒントになるでしょう。
また、検索はブラウザ上の他、行動範囲をざっくりと示した縮尺で「マップ検索」を行うケースが増え、Googleマップへの対策はますます重要です。これは、私も関わる民間各社のアクセス解析結果でも明らかです。
もう一つ、この日、隣接する道の駅にはそこそこ賑わいがありました。道の駅とは隣接しているものの厳密には宿場町は視覚的に連動しているわけではなく、全ての道の駅訪問客に認識されているかどうかはわからないと感じました。
そういう意味では、やはり旅マエの情報提供を強化することが地方の観光では最も重要なことになるでしょう。宿場町のWebサイト(まだ新しいようです)は今後も運用の部分で改善できそうなポイントもありそうですし、Googleビジネスプロフィールや外部サイトへの露出など、今後検討できる施策も多いかもしれません。
最後に、こうした行政区がまたがった観光スポットはいくら魅力があっても、いくら車で20分ほどの目の前であっても行政区以外の情報発信を行いません。地方創生は単独ではなく連携、周遊が必要ですが(個々のコンテンツが成熟していないので)それが果たせないことが多いです。
従って民間の事業者や観光地の組合や保勝会などが周遊の一環として提案するような施策やWebコンテンツとしての発信をしていくことが大切だと各地の経験から感じます。
街並みや雰囲気、店舗や宿、寺社もいくつかある魅力がまだまだ感じられる熊川宿。マーケティング的には楽しみが非常に多く、より賑わいがつくれそうな観光スポットだと感じました。これからも沢山の方に足を運んで欲しいものですし私もまた美味しい鯖寿司を食べ、お土産を買いに行こうと思います。



