Last Updated on 2024-12-28
Web活用において大切な指標の中に「UI/UX」があります。User Interface、User experienceの略で、簡単に言えばWebサイトに訪れるユーザーの使い勝手の良さや解りやすさなどに配慮した構成やデザインを施してユーザーの満足度を向上させることです。検索エンジン(Google)への信頼を稼ぐ上でも重要だとも言われています。
しかしながらユーザーの満足度を向上させるためのテンプレートや方程式はなく、全てが管理者の主観で行う必要があります。主観とは十人十色であり曖昧なわけですが、観光事業者の販促会議などでWebデザインが議題になった際は、ただ主観を意見し合っているだけという場合が少なくありません。あなたの会社もそうではないでしょうか?
しかし、それを科学的な実験や統計に基づき発表された様々な法則で、少しでも構成やデザインの曖昧さに物差しをあてようと“UXデザインを心理学的にアプローチ“した人がアメリカにいました。
今回はその中の一つの法則がWebサイトデザインだけではなく、リアルのサービスの現場で生かすことについてお話ししましょう。
ジョン・ヤブロンスキ氏(Jon Yablonski)はアメリカのデジタルクリエイティブ、デザイン等の分野で活躍し、UXデザインとWeb制作におけるユーザー心理を説いたLaws of UX 「UXの法則」を発信していることで知られます。特にクリエイティブやWebの業界では多くの人がそれらの法則を仕事に応用しているでしょう。
Webサイトに訪れたユーザーがどのような感覚でサイトを閲覧、操作を行い、その時に与える不便や不満がどのように生じるのか?視覚や操作がどのような心理で行われるのか?など、ユーザーの満足度(UX)を向上させるためのサイトデザインについていくつもの法則に分けてまとめられています。
日本ではそれを翻訳された本も出版されており、関心のある方は是非お読みになって下さい。(UXデザインの法則)
その中に「ピークエンドの法則」という法則があります。ユーザーがサービスに対して抱く印象をどのように決定づけるのか?ということについて書かれており、今やユーザーの印象は口コミとしてWeb上で発信されるため旅行・レジャーに関する事業者にとっては関心が高いところです。
この法則は、ユーザーが何かを経験する際(Webサイトに訪問し閲覧する等)そこで持つ印象(評価や感想)は全体(閲覧の開始から終了まで)を通した善し悪しを総合的に評価したり、その平均を考えたりすることはなく、経験中の感情の「ピーク時」や「終了間際のエンディング時」の印象が強く残るというものです。(私なりに意訳しています)
Webで検索すれば、多くのサイトがこの法則について解説しています。そこには論文で発表されている医学での実験事例やWebサイトでの応用についても詳しく書かれているものも多く是非一度ご覧になって下さい。もちろん先に述べた翻訳本にも詳しく書かれています。
これは私の勝手な事例ですが、遊園地のジェットコースターで、最初にゆっくりと高所へ上がって行く緊張感とその景色。そこから一気に下りで始まるスピード感と恐怖。そして最後のもっともスリリングなエンディングと、後の記憶はピークとエンドに集約されているように思います。
夏の花火大会も、特別に大きな花火玉が大音量でドーンと開いた瞬間や、船の形の模様などに開く仕掛け花火。そしてエンディングの派手な仕掛け花火の連発が記憶に残ります。何千発も上がってもやはりピークとエンドが後の印象として残り口コミに続くでしょう。
Webサイトでは、少し時間のかかる作業(何かの登録や申込み等)を終えてEnterボタンを押した時に心が和むようなイラストや文章が出てきたりするのはこの法則を考慮しているとも言われます。私自身の経験でもいくつかあります。
クラウド会計ソフトを使って確定申告をしていますが、面倒な作業を終えてオンラインで申告を完了した直後に「ホッと心が和む」ような画面が出てきました。やはりこの会計ソフトに対して良い印象、評価を持ち、会計ソフトを探している人がいれば話題にもしたくなります。

さて、このピークエンドの法則はWebサイトの運用において書かれていますが旅行・レジャー事業においてはむしろリアルのサービスの現場で応用が可能です。
実際に私のホテルクライアントではチェーンの多くでスタッフのホスピタリティがお客様からの高い評価を頂いています。特に経営者の方のポリシーでホテル全体の強みとして下地ができたものです。しかし、その口コミを分析してみると、サービスする側が意図せずともこの法則通りにお客様の印象が残っていると感じられました。
これはホテルだけではなく、飲食店や体験プログラム、タクシーなど交通事業者などにおいても同じです。お客様のご利用がスタートしてから終了までの間に感じる「ピーク」の感情を印象良く「エンド」でいかに心地よく利用を完了していただけるか。それを意識したサービスは必ず口コミに影響を与えます。
では、自社のサービスにおけるピークエンドをどのように想定すればよいでしょうか?それは「お客様が自社を体験する時間内にどのような接触やコミュニケーションを行っているのか?」を具体的に時間軸に沿って触れるサービスや商品を書き出してみるとよいでしょう。「お客様のご利用中のジャーニーマップ」として見える化し確認するわけです。
例えはホテルであれば、ロビーに到着されてはじめてフロントスタッフと接触する瞬間からお客様の感情は期待と不安の両方が存在しています。そのため、フロントスタッフが最初にかける言葉や笑顔の印象はお客様の印象にかなり強く残るでしょう。チェックイン時はピーク感情になりやすい反面、うまくいかなければリスクも大きなものです。
もちろん人であるスタッフとの接触だけではなく、エントランスから入った瞬間の「雰囲気」もお客様の感度が高いでしょう。明暗や音、温度、臭いなど五感が研ぎ澄まされているかもしれません。アロマディフューザーなどはそうした狙いもあるでしょう。
何より、一番滞在時間が長い部屋の中は非対面でもお客様の感情を想像するべきでしょう。ライティングデスクにセットしたメッセージや、そっと洗面所に添えた一輪挿し、ターンダウンサービスで見かけるベッドの上のキャンディーや鶴の折り紙も心に何かを残す可能性もあります。
朝には朝食レストランのスタッフや清掃係の元気がいい挨拶や、チェックアウト時のエントランスで聞こえるお客様の背後の「有り難うございました、お気を付けていってらっしゃいませ」のワンフレーズがエンディングの感情を決定づけるかもしれません。
これらはホテルの敷地で展開されるジャーニーマップですが、ホテルによってはその前後でホテルとお客様は接触しているケースがあります。それは、駅や空港との送迎サービスを持つホテルにとっては、実はバスドライバーこそ最初と最後のホテルのスタッフであるわけです。ついつい館内に意識が行きがちですが、常にお客様目線で全てを考える必要があります。
リレーのアンカーは言わずもがな競技の要、最後の砦でありエースがそのポジションにつきます。テレビのニュースキャスターのこともアンカーと呼ぶことがあります。取材現場のロケや編集、編成など多くの人の手で渡ってきた素材を視聴者に伝える正にリレーのアンカーとして重要な役割を果たします。
旅行・レジャー事業は人が関わり複雑ですから全てが「終わり良ければ全て良し」とはいきませんが、滞在時間で満足度を上げてきたお客様、またその逆で怒りをピークの感情にしてしまったお客様。いずれもエンドは感謝や謝罪の言葉と心を伝えることで「もう一度利用をしていただけるか」「人にすすめてもらえるか」の結果が大きく異なることでしょう。
あなたの店舗や会社のサービススタッフにはこの「ピーク」と「エンド」の法則をまず知ってもらうこと。そして、ご利用のジャーニーマップをみんなで書き出してお客様の感情が働くポイントを確認する。施設の大小を問わず、このピークエンドの法則をもとにお客様とのコミュニケーションについて今一度考えてみる価値は必ずあるでしょう。

